「部屋を借りたいのに、年齢を理由に断られてしまった……」
これは、日本の高齢者が直面するリアルな壁です。
少子高齢化が急速に進む日本では、65歳以上の人口が全体の約30%に達しています。それにもかかわらず、不動産賃貸市場において高齢者は依然として「借りにくい存在」として扱われることが多く、住まいを求めて何軒も断られる、そんな経験をする方が後を絶ちません。
・なぜ高齢者は家を借りにくいのでしょうか?
・貸主側にはどのような懸念があるのでしょうか?
・そして、高齢者が安心して住まいを確保するために、どのような制度や選択肢があるのでしょうか?
そこで今回は、高齢者の不動産賃貸をめぐる現状を多角的に掘り下げ、当事者・家族・支援者のそれぞれの視点から、解決のヒントを探っていきます。

第1章 高齢者が家を借りにくい理由
1-1. 貸主が抱える「3つの不安」
不動産オーナー(大家)が高齢者への貸し渡しをためらう背景には、主に次の3つの不安が存在します。
①孤独死のリスク
独居高齢者が自室で亡くなり、発見が遅れた場合、物件は「事故物件」として扱われるリスクがあります。事故物件は心理的瑕疵があるとみなされ、次の入居者を見つけることが難しくなったり、家賃を大幅に下げなければならなくなったりします。
こうした経済的損失への恐れが、高齢者入居拒否の大きな動機になっています。
実際に国土交通省の調査によると、大家の約70%が「高齢者への賃貸に不安を感じる」と回答しており、その筆頭理由は「孤独死への不安」でした。
②認知症・生活上のトラブルへの懸念
認知症を発症した場合、火の消し忘れや水道の出しっぱなし、深夜の徘徊といった問題が起きる可能性があります。近隣住民とのトラブルや、最悪の場合は火災に発展するリスクを大家は恐れています。
また、認知症が進行した場合に家賃の支払いが滞るリスクも懸念されます。
③連帯保証人が見つかりにくい問題
賃貸契約には連帯保証人が必要なことが多いですが、高齢者の場合、子どもや親族が保証人を引き受けることを拒否するケースもあります。子どもがいない、あるいは疎遠であるといった家庭事情も、審査の壁を高くする要因です。
1-2. 制度的・慣習的な「見えない壁」
大家個人の感情的な不安だけでなく、不動産業界の慣習や制度そのものが高齢者の入居を阻んでいることもあります。
・年齢制限の慣行
「65歳以上お断り」「70歳以上は入居不可」といった年齢制限を設ける物件は、法律上は必ずしも違法ではありません。(合理的な理由があれば認められる場合があります)
一方で、高齢者であることを理由に一律拒否することは、合理的配慮の観点から問題視されつつあります。
しかし現実には、こうした慣行は依然として広く残っています。
・審査書類の壁
賃貸審査では収入証明が求められますが、年金生活者の場合、毎月の収入が不安定に見えることがあります。
「年収が家賃の36倍以上」という基準を設ける物件では、月10万円の年金生活者が月3万円以上の家賃を借りることが難しくなる計算です。
・保証会社の審査
昨今は連帯保証人の代わりに保証会社を利用する「賃貸保証」が普及していますが、保証会社によっては高齢者の審査を通さないケースがあります。
1-3. 高齢者自身が抱える困難
借りる側の高齢者にも、賃貸契約を難しくする事情があります。
・情報収集の困難
スマートフォンやインターネットに不慣れな高齢者は、物件情報の入手や不動産会社とのやり取りに困難を感じることがあります。
また、不動産用語や契約書の内容を理解することも、高齢になるほど難しくなることがあります。
・物理的な負担
内見のために遠出したり、複数の書類を準備して窓口を訪れたりすることは、体力の落ちた高齢者にとって大きな負担です。
・心理的な萎縮
何度も断られるうちに「また断られるのではないか」という不安が生まれ、新たな物件探しに踏み出せなくなる「申し込みの萎縮」が起きることもあります。
第2章 高齢者の住宅問題がもたらす社会的影響
2-1. 住居確保の失敗が招く生活崩壊
「賃貸物件を借りられない高齢者がどうなるか?」
その先には、生活崩壊の連鎖が待っています。
老朽化した公営住宅や親族の家に頼り続けることには限界があります。入居できる施設はコストが高く、年金だけでは賄えないことが多いのです。
行き場を失った高齢者がネットカフェや簡易宿所で生活する「高齢ホームレス」の問題も深刻化しています。
厚生労働省の調査では、生活保護受給者のうち65歳以上の高齢者が半数以上を占めており、その多くが住居に関する問題を抱えていることが報告されています。
2-2. 独居高齢者の急増と孤独死問題
2040年には、日本の独居世帯の約40%が65歳以上になるという推計があります。独居高齢者の増加は、孤独死の増加にも直結します。
ただし重要なのは、「孤独死のリスクがあるから高齢者には貸さない」という論理が、問題を悪化させる悪循環を生んでいる点です。住まいを失えばむしろ孤立化が進み、孤独死のリスクはさらに上がります。適切な住まいの確保こそが、孤独死予防の第一歩なのです。
2-3. 地方の空き家問題との関係
一方で、日本全国に空き家は約900万戸(2023年時点、総務省調査)存在しており、その多くは地方の高齢化した地域に集中しています。住まいを求める高齢者がいる一方、借り手のない空き家が増え続けるという「ミスマッチ」が社会的損失を生んでいます。
高齢者と空き家を結びつける仕組みを整備することは、住居問題と空き家問題を同時に解決する有望な道です。
第3章 制度・支援の現状
3-1. 住宅セーフティネット法と登録住宅制度
2017年に改正・施行された「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(住宅セーフティネット法)は、高齢者・低所得者・障害者・子育て世帯などを「住宅確保要配慮者」と定義し、こうした人々が入居しやすい賃貸住宅を整備するための制度を設けました。
この制度では、空き家や空き室を持つ大家が「登録住宅」として都道府県に登録することで、改修費の補助や家賃補助を受けられる仕組みがあります。また、入居を拒まない(「拒まない住宅」)として登録した物件は、都道府県の情報提供システムで公開されます。
しかし、制度の周知が十分でなく、登録件数は伸び悩んでいるのが現状です。大家への支援が手厚くないと感じる声や、手続きが煩雑といった指摘もあります。
3-2. 居住支援法人・居住支援協議会
「居住支援法人」とは、住宅セーフティネット法に基づき都道府県が指定した法人で、高齢者などの住宅確保要配慮者に対して、入居相談・物件探し・入居後の生活支援などを行います。NPO法人や社会福祉法人が多く、各地域で独自の取り組みを進めています。
また、「居住支援協議会」は、不動産関係団体・福祉関係団体・行政が連携して住宅確保要配慮者の支援を行う協議体です。2024年時点で全国100以上の都市に設置されており、地域ごとにさまざまな支援事業を展開しています。
3-3. 家賃債務保証制度(公的保証制度)
国土交通省は「家賃債務保証業の登録制度」を整備し、保証業者の質の向上を図っています。また、一部の自治体では、高齢者が保証会社の審査を通りやすくするための「公的保証制度」を設けています。
例えば東京都では「東京ささエール住宅」として登録された住宅について、都が家賃債務保証を補完する仕組みが設けられています。こうした公的保証の拡充が、高齢者の入居促進に向けた重要な施策とされています。
3-4. サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は、バリアフリー構造を備え、安否確認と生活相談サービスが義務付けられた賃貸住宅です。一般の賃貸に比べて入居審査が通りやすく、介護サービスが必要になった際も柔軟に対応できる点が特徴です。
2024年時点で全国に約29万戸が供給されており、年々増加しています。ただし、月額費用は一般賃貸より高いことが多く、年金収入だけでは賄えないケースも多い点が課題です。
第4章 高齢者が家を借りるための実践的アドバイス
4-1. 入居前の準備を万全に
①収入・資産を「見える化」する
年金収入だけでなく、預貯金や有価証券の残高を示す書類を準備しましょう。収入が少なくても、一定の資産があれば審査を通りやすくなります。
「3年分の家賃を一括払いできる」と伝えることで交渉が進むケースもあります。
②保証人、保証会社の手配を先に進める
親族に保証人を依頼できない場合は、事前に高齢者向けの賃貸保証サービスに申し込むことを検討しましょう。
「一般社団法人全国賃貸保証業協会」の会員会社や高齢者入居に対応した保証会社を探しておくと、物件探しをスムーズに進められます。
③身元保証人と生活支援の体制を整える
「緊急連絡先が確保されている」「定期的に安否確認をしてくれる人がいる」という事実を示せると、大家の安心感が高まります。
居住支援法人や見守りサービスとの契約を事前に結んでおくのも一つの方法です。
4-2. 物件探しのポイント
・高齢者受け入れOKの物件を優先的に探す
国土交通省の「セーフティネット住宅情報提供システム」では、高齢者などの入居を断らない登録住宅を検索できます。
また、地域の居住支援法人や社会福祉協議会に相談することで、地元の対応可能な物件情報を得られることがあります。
・公営住宅への申し込みを検討する
都道府県・市区町村が管理する公営住宅は、所得が低い場合に家賃が大幅に低減され、高齢者向けの優遇措置がある自治体も多くあります。
ただし、抽選倍率が非常に高い地域もあるため、早めに申し込みを始めることが重要です。
・シェアハウス・コレクティブハウスという選択肢
近年、シニア向けのシェアハウスや、複数の独身高齢者が共同で暮らす「コレクティブハウス」という形態が注目されています。
孤立を防ぎ、生活費を抑えられるというメリットがあり、新しい住まい方として徐々に普及しています。
4-3. 交渉の場での心構え
大家との交渉では、「リスクを理解したうえで、そのリスクをできる限り軽減する手段を持っている」ことを伝えることが重要です。
具体的には以下のような提案が有効です。
・見守りサービスの利用:民間の安否確認サービスや、地域の民生委員との連携を提示する
・緊急連絡先の確保:親族・友人・支援者の連絡先を書面で提供する
・賠償責任保険への加入:死後事務や原状回復費用を賄う保険商品に加入する
・定期的な連絡、報告:月1回など定期的に大家に連絡する意向を示す
第5章 家族・支援者ができること
5-1. 子どもや親族の役割
高齢の親が住まいを探している場合、子どもや親族ができることは多くあります。
・物件探しの代理対応
スマートフォンや不動産ポータルサイトを使いこなせない親の代わりに、子どもが物件を検索し、内見に同行することが大きな助けになります。
また、仲介業者への連絡も子どもが窓口になることで、スムーズに進む場合があります。
・保証人、緊急連絡先としての参加
可能であれば、保証人や緊急連絡先として登録することが、審査通過の大きな後押しになります。
たとえ連帯保証人の責任を負うことに不安があっても、緊急連絡先だけでも引き受けることで状況が変わることがあります。
・定期的な見守り体制の構築
入居後に週1回でも電話したり、月1回訪問したりすることで、孤独死のリスクが大幅に下がります。
大家にとっても「家族が定期的に見守っている」という事実は安心感につながります。
5-2. 支援者・専門家のかかわり
ケアマネージャーや地域包括支援センターの職員、社会福祉士といった専門家が、住まい探しに同行・支援するケースも増えています。
「住まいの確保」は介護・福祉の前提条件であるという認識が広がり、福祉と不動産が連携する動きが生まれています。
居住支援法人のなかには、入居相談から契約手続き、入居後の見守りまでトータルでサポートする法人もあります。地域の社会福祉協議会や地域包括支援センターに相談することで、こうした法人を紹介してもらえることがあります。
第6章 大家・不動産業者への提言
6-1. 高齢者入居は「リスク」だけではない
高齢者入居にはリスクがある一方で、メリットもあります。
・入居期間が長い:高齢者は頻繁に引っ越しをしないため、長期安定入居が期待できる
・昼間在宅率が高い:防犯面でのメリットがある
・生活パターンが規則正しい:騒音トラブルが起きにくい
空き家、空き室を抱える大家にとって、高齢者は決して「避けるべき入居者」ではなく、「適切なサポートがあれば安心して迎えられる入居者」です。
6-2. リスク軽減ツールの活用
大家が高齢者入居に踏み出しやすくするためのツールが整備されています。
・死後事務委任契約、残置物処理
2021年に国土交通省・法務省が「賃貸住宅における残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しました。これにより、入居者があらかじめ死後の残置物処理を受任者に委任しておくことができ、大家の負担を軽減できます。
・孤独死保険
大家向けの孤独死保険商品が複数の保険会社から販売されており、孤独死が発覚した場合の原状回復費用や家賃損失を補填できます。保険料は月額数百円程度のものもあり、コスト面での障壁は低くなっています。
・見守りサービスとの連携
センサー型・コール型などさまざまな安否確認サービスと連携する仕組みを整えることで、孤独死の早期発見が可能になります。入居者が自発的にサービスを利用することを条件にすることで、大家としての安心感を高めることができます。
6-3. 不動産業者の役割の重要性
不動産仲介業者は、大家と入居者の間に立つ重要な存在です。
高齢者からの入居相談に丁寧に対応し、大家への説明・説得を担う役割が求められています。
「高齢者だからと最初から諦めない」「条件を工夫してマッチングを試みる」という姿勢が、業界全体で広がることが求められます。
宅建業者向けのガイドラインでも、高齢者への対応に関する項目が設けられており、研修や啓発が進んでいます。
第7章 これからの高齢者住宅(未来への展望)
7-1. テクノロジーによる見守りの進化
IoTセンサーやAIを活用した見守りシステムが進化しています。水道の使用量・電気のスイッチ操作・体重計のデータなど、日常生活の変化を非侵襲的にモニタリングし、異常があれば自動で家族や支援者に通知する仕組みが普及しつつあります。
こうしたテクノロジーが広がることで、孤独死リスクに対する大家の不安が解消され、高齢者入居の受け入れが拡大することが期待されます。
7-2. 「住まい+ケア」の一体化
単なる住居提供だけでなく、生活支援・医療・介護とセットになった「住まい+ケア」の複合型サービスが増えています。サービス付き高齢者向け住宅はその代表例ですが、より地域に密着した形で、訪問介護や通いの場を組み合わせた住まいのあり方が模索されています。
「地域包括ケアシステム」の推進により、在宅医療・介護・住まい・生活支援・予防が地域でつながる仕組みが整いつつあり、高齢者が安心して住み続けられる環境が少しずつ整備されています。
7-3. 空き家の活用と地方移住
地方自治体のなかには、高齢者の地方移住を積極的に支援するところも増えています。地方の空き家をリノベーションして高齢者向け住宅として提供する取り組みや、農村部での「田舎暮らし移住」を支援するプログラムも広がっています。
都市部の高齢者が地方へ移住することで、住居費の大幅削減・自然環境でのゆったりした生活・地域コミュニティへの参加といったメリットを享受できる可能性があります。地方自治体にとっても、人口維持・地域活性化につながることから、移住支援を手厚くする動きが続いています。
7-4. 法整備の動向
高齢者が住宅確保において不当な差別を受けないようにするための法整備も、今後の課題です。年齢による一律拒否を制限するガイドラインの強化や、高齢者受け入れを促進するインセンティブの充実が求められます。
国会でも「住宅確保要配慮者支援法」の改正や、成年後見制度との連携など、高齢者の居住権を守るための議論が続けられています。
最後に
「高齢者が安心して家を借りられる社会」
それは、誰もが自分らしく老いることができる社会の基盤です。
「年をとったら家を借りられない」という現実は、個人の問題ではなく、社会全体が向き合うべき構造的な課題です。大家の不安、入居者の困難、制度の不備、情報の非対称性など、これらが複雑に絡み合ったこの問題は、一朝一夕には解決しません。
しかし、制度の整備・テクノロジーの進化・福祉と不動産の連携・コミュニティの力によって、少しずつ状況は変わっています。
重要なのは「諦めない」ことです。
高齢者本人・家族・不動産業者・行政・支援団体・地域コミュニティ—、それぞれが少しずつ歩み寄ることで、高齢者が安心して「住まい」を確保できる社会に近づくはずです。
今回の記事が、住まいに悩む高齢者やその家族、支援に携わる方々にとって、少しでも役に立てば幸いです。
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